ウーチーの薬剤師冒険記 改正版第3弾:高血圧ガイドライン活用法 薬剤師による適切な血圧管理サポート

高血圧

📋 免責事項

本記事は薬剤師の学習・研修を目的として作成されています。患者への指導や治療方針の決定は、必ず医師・薬剤師の専門的判断に基づいて行ってください。

⚖️ 薬剤師の適切な職務範囲

薬剤師は薬剤師法第25条の2に基づき、調剤した薬剤の適正使用のために必要な情報提供および指導を行う責務があります。降圧薬の適正使用をサポートするため、医師が設定した血圧目標値を確認し、服薬指導に活用することは、この責務の範囲内です。

重要な前提条件:

  • 血圧目標値の設定・診断・治療方針の決定は医師の専権事項です
  • 薬剤師は必ず事前に医師から目標値の確認を得てから患者指導を行います
  • 本記事で扱う内容は、すべて医師確認済みの目標値に基づく服薬指導です
  • 薬剤師が独断で目標値を判断・設定することは一切ありません

はじめに:薬剤師が目標値を知る必要性

2019年高血圧ガイドライン(JSH2019)では、患者さんの年齢や合併症によって血圧目標値が大きく異なります。

なぜ薬剤師が目標値を知る必要があるのか?

  • 適切な服薬指導のため(「血圧が下がりすぎている」「まだ目標に達していない」等の判断ができない)
  • 患者さんからの質問への適切な対応のため
  • 医師の治療方針を理解した上でのサポートのため

ただし、絶対的な条件: 薬剤師は必ず事前に処方医師から個別の目標値を確認してから、患者指導を行います。


医師確認が必要な理由

ガイドラインの数値は「参考情報」

JSH2019の目標値は一般的な指針であり、実際の患者さんの目標値は:

  • 個別の病状や重症度
  • 併存疾患の状況
  • 患者さんの年齢・体力
  • 薬剤への反応性
  • 生活環境

これらを総合的に医師が判断して決定されます。

薬剤師による目標値の「推測」は適切ではない

ガイドラインを参考にしても、薬剤師が目標値を決定・推測することは:

  • 診断行為に該当する可能性
  • 医師の治療方針と異なる可能性
  • 患者さんに混乱を与える可能性

そのため、必ず医師への確認が前提となります。


【参考】JSH2019による一般的な目標値分類

以下は医師確認時の参考情報として提示

⚠️ 重要な注意事項

以下の合併症分類は、薬剤師が医師に目標値を確認する際の「参考知識」として記載しています。

  • 合併症の有無や重症度の判断は医師が行います
  • 薬剤師がこの情報をもとに患者の合併症を判断することはありません
  • 実際の目標値は必ず担当医師にご確認ください
  • 以下は一般的な分類であり、個別の患者さんでは医師が総合的に判断します

基本的な目標値の考え方

血圧目標値の違いは「疾患リスクと治療効果・副作用のバランス」を医師が総合的に判断した結果です。

患者の一般的状況家庭血圧の一般的目標医師が考慮する要因
75歳未満の成人125/75 mmHg 未満心血管保護効果と副作用リスクのバランス
75歳以上の高齢者基本的に135/85 mmHg 未満※副作用リスクを重視した安全性の考慮

※合併症の種類・重症度により医師が個別に判断

【参考】医師が目標値設定時に考慮する主な合併症

⚠️ 以下は薬剤師の学習用参考情報です。実際の合併症の有無・重症度は医師が診断・判断します。

厳格管理の対象となりやすい合併症(一般的に家庭血圧125/75 mmHg未満)

脳血管障害(医師による重要血管狭窄の評価が前提)

  • 脳梗塞・脳出血の既往(血管状態は医師が画像診断等で評価)
  • 医師による再発リスク評価に基づく厳格管理

冠動脈疾患

  • 狭心症・心筋梗塞の既往、カテーテル治療歴(医師による診断)
  • 心電図・心エコー・カテーテル検査等による医師の総合判断

慢性腎臓病(CKD)(医師による病期分類が前提)

  • 蛋白尿の有無(医師による尿検査・腎生検等の評価)
  • eGFR値、蛋白尿の程度を医師が総合的に判断

糖尿病

  • 医師による診断・HbA1c等の評価
  • 合併症の進行度を医師が総合的に判断

抗血栓薬服用(医師による処方・適応判断)

  • ワーファリン、DOAC、抗血小板薬等(医師の処方判断)
  • 出血リスクと血栓リスクのバランスを医師が慎重に評価し、過度の降圧を避ける場合がある

相対的に緩やかな管理となりやすい患者(一般的に家庭血圧135/85 mmHg未満)

75歳以上の特定状況(医師による個別評価が前提)

脳血管障害(重要血管狭窄あり・未評価)

  • 医師による画像診断(頸動脈エコー、MRA、CT等)で血管狭窄を評価
  • 過度の降圧による脳血流低下リスクを考慮した医師の慎重な判断

慢性腎臓病(蛋白尿陰性)

  • 医師による腎機能評価(eGFR、蛋白尿、腎エコー等)
  • 高齢者の腎機能と降圧リスクを医師が総合判断
  • ※上記は一般的な目安であり、実際の目標値は患者さんの個別状況を医師が総合的に判断して決定されます。

薬剤師が医師に確認すべき重要事項

上記の参考情報をもとに、以下の点を医師に確認することが重要です:

  1. 患者さんの具体的な目標値
  2. 目標値設定の根拠となった合併症や病状
  3. 特に注意すべき副作用や症状
  4. 目標値変更の可能性やタイミング

注意:上記は一般的な参考値であり、実際の目標値は必ず担当医師にご確認ください。合併症の診断・評価は医師の専権事項です。


医師との適切な連携方法

1. 目標値確認の具体的方法

面会し、直接確認(推奨) 「○○さんの血圧目標値を教えていただけますでしょうか?患者さんへの適切な服薬指導のために確認させてください」

トレーシングレポートによる確認

【疑義照会・確認事項】
患者氏名:○○様
確認事項:血圧目標値について
目的:適切な服薬指導のため
質問:○○様の血圧目標値(家庭血圧)を教えて頂けないでしょうか?ご確認の程、宜しくお願いいたします。

カルテ記載の確認依頼 「可能でしたら、カルテに目標値をご記載いただけると、継続的な指導に活用させていただきます」

2. 確認時に聞くべき重要事項

  • 具体的な目標値(収縮期/拡張期)
  • 家庭血圧か診察室血圧かの確認
  • 特別な注意点の有無
  • 目標値変更の可能性やタイミング

医師確認後の患者指導実践

前提条件の明確化

患者さんへの説明時は必ず以下を伝える: 「先生に確認させていただいた○○さんの血圧目標値は…」 「先生の治療方針に基づいて…」 「先生もこの方針でとおっしゃっています」

目標達成時の励まし(医師確認済み前提)

「○○さん、家庭血圧が124/74mmHgで、先生に確認した目標値125/75mmHg未満を達成されています。先生もとても順調だとおっしゃっていました。この調子で継続していきましょう」

目標未達成時のサポート(医師確認済み前提)

「今回は130/78mmHgでしたね。先生に確認した目標値125/75mmHgまであと少しです。先生の治療方針に沿って、お薬をしっかり続けながら、生活習慣の面でもサポートさせていただきますね」

生活指導時の医師連携強調

「先生の治療方針の一環として、生活習慣の改善も重要とのことです」

  • 塩分制限(1日6g未満)
  • 適度な運動(週3回、30分程度のウォーキング)
  • 体重管理

「これらの取り組みも先生に報告させていただき、一緒にサポートしていきます」


患者・医師への適切な姿勢

患者さんへの説明での注意点

❌ 「ガイドラインでは…」「薬剤師として判断すると…」 ⭕ 「先生に確認したところ…」「先生の方針に沿って…」

医師への報告・相談

  • 目標値に関する患者さんの質問や不安
  • 血圧値の変動や気になる点
  • 生活習慣改善の取り組み状況
  • 服薬状況と血圧の関連

職域を超えない適切な対応

薬剤師が行うこと:

  • 医師確認済み目標値に基づく服薬指導
  • 目標値達成に向けた生活習慣サポート
  • 血圧変動時の医師への適切な報告

薬剤師が行わないこと:

  • 目標値の独自判断・設定
  • 治療方針の変更提案
  • 診断に関わる判断

医師・薬剤師・患者の三者連携による効果

一貫した治療方針の実現

  • 医師の診断・治療方針
  • 薬剤師の服薬指導・生活サポート
  • 患者さんの理解・実践

患者さんの安心感向上

医師と薬剤師が連携していることを明確に示すことで:

  • 治療に対する信頼感向上
  • 継続的なサポート体制の実感
  • 疑問や不安の解消

医療チームとしての専門性発揮

  • 医師:診断・治療方針・目標設定
  • 薬剤師:薬学的知識に基づく服薬指導・生活サポート
  • 役割分担による効率的で質の高い医療提供

まとめ

高血圧管理における薬剤師の役割は、医師が設定した目標値を正確に把握し、その方針に基づいて患者さんの血圧管理をサポートすることです。

重要なポイント:

  1. 必ず事前に医師から目標値の確認を得る
  2. ガイドラインは参考情報として活用し、実際の指導は医師確認事項に基づく
  3. 患者さんには医師との連携を明確に伝える
  4. 薬剤師の職域を適切に守りながら専門性を発揮する

薬剤師として適切な範囲内で患者さんの血圧管理をサポートし、医療チームの一員として治療効果の向上に貢献することが大切です。


※本記事の内容は、すべて医師確認を前提とした薬剤師の服薬指導に関するものです。目標値の設定・変更は医師の判断に委ねられます。

※本記事は薬剤師の学習・研修を目的として作成されています。実際の患者指導は、必ず担当医師との連携のもとで行ってください。

(2025年6月現在)


参考文献

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編. 高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019). 日本高血圧学会, 2019. https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_hp.pdf

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