ウーチーの薬剤師冒険記 第4弾:家家庭血圧測定、ちゃんとできてる?薬剤師が伝えたい “正しい測り方” と医師との連携ポイント【改正版】

高血圧

📋 免責事項

本記事は薬剤師の学習・研修を目的として作成されています。患者への指導や治療方針の決定は、必ず医師・薬剤師の専門的判断に基づいて行ってください。

⚖️ 薬剤師の適切な職務範囲

薬剤師は薬剤師法第25条の2に基づき、調剤した薬剤の適正使用のために必要な情報提供および指導を行う責務があります。降圧薬の適正使用をサポートするため、家庭血圧測定の正しい方法を指導し、医師と連携することは、この責務の範囲内です。

重要な前提条件:

  • 血圧目標値の設定・診断・治療方針の決定は医師の専権事項です
  • 薬剤師は必ず事前に医師から目標値の確認を得てから患者指導を行います
  • 本記事で扱う内容は、すべて医師確認済みの目標値に基づく服薬指導です
  • 薬剤師が独断で目標値を判断・設定することは一切ありません

要約

家庭血圧測定は高血圧治療の要ですが、多くの患者さんが測定方法を間違えています。正しい測定には①適切な環境づくり、②朝晩2回の定時測定、③正しい姿勢とカフ装着、④適切な血圧計選択が重要です。薬剤師は測定技術だけでなく、継続的な測定習慣の定着と医師との適切な情報共有をサポートし、治療効果の向上に貢献します。

こんにちは、ウーチーです!今回は**高血圧管理の最重要ポイント「家庭血圧測定」**について解説します。患者さんからは「測ってるけど正しくできてるか分からない」という声が多く聞かれますが、実はもっと重要な問題があります。

「家庭血圧を測っているのに、医師に伝えていない」

この現実こそが、薬剤師が最も注目すべきポイントなんです。

なぜ「家庭血圧」が大切なの?

高血圧は自覚症状なく進行し、脳卒中や心筋梗塞など命に関わる病気のリスクを高めるため、「サイレントキラー」と呼ばれています。

家庭血圧の3つのメリット

メリット内容
① 正確な診断診察室血圧よりも予後予測精度が高く、白衣高血圧や仮面高血圧の把握にも有用
② 薬の効果確認朝晩の測定で、薬の効き具合や持続時間の評価が可能
③ 行動変容の促進測る習慣ができると、服薬や生活改善への意識が向上

正しい家庭血圧測定の方法

測定前の準備:環境を整える

測定値に影響する要素を取り除くため、以下を徹底しましょう:

  • 環境:静かな部屋、室温18~24℃
  • 姿勢:イスに座って1~2分リラックス(背もたれつきが望ましい)
  • 呼吸:深呼吸を5~6回
  • 禁止事項:測定30分前の喫煙・飲酒・カフェインは禁止
  • その他:トイレは事前に済ませておく

測定のタイミングと頻度

朝と夜の2回測定が基本

時間帯測定条件
起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前、座位1〜2分安静後
就寝前、座位で1〜2分安静後

📌 各回2回測定し、その平均値を記録
📌 少なくとも5~7日分の平均値が必要

正しい姿勢とカフの巻き方

項目ポイント
姿勢背筋を伸ばしてイスに座り、足は組まない
腕の位置机の上に置き、心臓の高さを保つ
カフ装着肘から1~2cm上、チューブは手のひら側、素肌または薄手の上着の上から

薬剤師からの声かけ例

「カフは肘の少し上、上腕の部分に巻きますね」
「正確な測定のため、厚手の服の上からではなく、素肌に直接巻かせていただけますか?」

血圧計の選び方と管理 推奨機器

✅ 推奨:上腕カフ型

  • 日本高血圧学会でも推奨
  • オシロメトリック法を採用したもの

❌ 非推奨:手首型

  • 心臓の高さからズレやすく、誤差が出やすいため

買い替えの目安(メーカー基準に基づく根拠)

  • 使用年数:約5年
  • 測定回数:約3万回
  • 買い替えのサイン:数値のバラツキ、エラー頻発、カフ劣化

各メーカーの耐用年数:

  • オムロン:本体5年または3万回、カフ1万回
  • テルモ:本体5年、カフ1年
  • エー・アンド・デイ:本体5年、カフ2年
  • シチズン:本体5年

これらの基準は国税庁の減価償却資産の法定耐用年数(5年)とも一致しており、税法上も血圧計は5年程度で買い替えるものとして位置づけられています。

患者さんが陥りやすい測定エラーと薬剤師の具体的指導

実際の現場で頻繁に遭遇する間違いとその改善法を紹介します。

よくある間違い問題点薬剤師からの声かけ例
安静にせず測定血圧が高めに測定される「1〜2分だけ深呼吸して落ち着いてから測りましょう」
寒い部屋での測定血管収縮により10-15mmHg高く出る可能性「冬場は部屋を暖めてから測定してください。寒いと本来より高く出てしまいます」
古い血圧計の使用精度低下により誤差が生じる「4-5年以上使用されている場合は、測定精度が落ちている可能性があります。買い替えを検討しましょう」
手首型血圧計の使用心臓の高さが保てず、誤差が大きい「手首型は便利ですが、上腕型の方が正確です。可能であれば上腕型に変更をお勧めします」
厚着の上から測定カフが十分に圧迫できず不正確「服が圧迫するとズレるので、薄手で測りましょう」
カフの位置がズレ心臓の高さと異なると誤差発生「この辺(肘上1〜2cm)で大丈夫ですよ」
気に入った値だけ記録平均値が不正確になる「平均が大切なので全部記録しておきましょう」

特に注意すべき環境要因

室温の影響は意外に大きく、寒い環境では血圧が高めに出ます。冬場の朝、暖房をつける前の寒い部屋での測定は避けるよう指導が必要です。

薬剤師の重要な役割:医師との連携架け橋           実際によくある現場のケース

ケース1:仮面高血圧の発見
患者さんが薬局で「家庭では140を超えているけど、今回の診察では問題ないって言われた」と相談。診察室血圧は正常だが、家庭血圧が高値を示す仮面高血圧の可能性が判明。

薬剤師の対応
トレーシングレポートを作成し医師に情報共有。

トレーシングレポート内容例:
「家庭血圧が140を超えていることを薬局で確認し、医師にはお話になっていないと伺いました。そのため、患者さんには、家庭血圧を測定し、次回受診時に医師へ見せるようにお伝えしております。」

ケース2:過降圧の発見
「最近ふらつきがある」という患者さんの家庭血圧を確認すると、110mmHg以下が続いていることが判明。しかし医師にこの情報が伝わっていない。

薬剤師の緊急対応
病院に疑義照会を行い、患者さんにはそのまま病院に戻ってもらって医師と相談。結果的に降圧薬の調整が必要となった。

医師への適切な情報提供のポイント

緊急性が高い場合(即座に病院へ)

  • 家庭血圧160/100mmHg以上が継続
  • 110mmHg以下でふらつき等の症状
  • 朝晩の血圧差が著明(30mmHg以上)

継続的なフォローが必要な場合
「家庭血圧をもう少し継続して記録し、次回受診時に結果を持参して相談してください」と指導し、適切な記録方法をサポート。

家庭血圧の目標値

年齢・条件家庭血圧目標(mmHg)
75歳未満<125/75
75歳以上<125/75※

※2025年8月に新ガイドライン(JSH2025)が発表され、75歳以上の目標が125/75mmHg未満に引き下げられました。最新の目標値については主治医にご確認ください。

薬剤師が支える「治療の基礎工事」

薬剤師の役割は薬を交付するだけではありません:

  • 正しい測定方法の指導
  • 血圧手帳や記録アプリの活用支援
  • 機器選びや買い替えタイミングのアドバイス
  • 医師への適切な情報提供のサポート
  • 緊急時の判断と迅速な医師連携

💬「せっかく測っているなら、”もったいない”をなくして医師と共有し、治療に活かしましょう」

まとめ:チーム医療の要としての薬剤師

家庭血圧測定は、高血圧治療における”見えない基礎工事”です。これがズレていると、いくら薬を調整してもコントロールはうまくいきません。

しかし、測定するだけでは不十分。適切なタイミングで医師と情報を共有することで、初めて治療効果が最大化されます。

薬剤師は患者と医師をつなぐ重要な架け橋として、正確な測定指導と適切な情報共有をサポートし、真のチーム医療を実現していきましょう。


📝 参考文献

  1. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. 高血圧治療ガイドライン2019. 東京: 日本高血圧学会; 2019年3月.
    https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_hp.pdf
  2. 厚生労働省健康・生活衛生局. 標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版). 2024年.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001231390.pdf

参考書籍

堀美智子著『処方せん、店頭会話からの薬剤師の臨床判断』:血圧測定のポイントや患者対応の実践的なアドバイスが豊富に掲載されており、現場での指導技術向上に役立ちます。

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※本記事の内容は、すべて医師確認を前提とした薬剤師の服薬指導に関するものです。目標値の設定・変更は医師の判断に委ねられます。
※本記事は薬剤師の学習・研修を目的として作成されています。実際の患者指導は、必ず担当医師との連携のもとで行ってください。
(2025年8月現在)

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