ウーチーの薬剤師冒険記 第35弾: 脂質異常症の薬、本当に必要?

脂質異常症

こんにちは、薬剤師のウーチーです!

「コレステロールが高いだけで薬を飲む必要があるの?」「卵は食べても大丈夫って聞いたけど本当?」「生活習慣の改善だけでなんとかしたいんだけど…」

薬局で働いていると、脂質異常症の治療についてこういった質問をよくいただきます。実は、ガイドラインと実臨床の間にはギャップがあり、多くの医師は「境界域〜中等度」の脂質異常症に対しては、数値だけでなく患者さんの全体像を見て判断されています。

でも、“絶対に薬を飲んだ方がいい”ケースがあるのも事実です。今回は、議論の余地が少ない3つのケースに絞ってお話します。

1. 家族性高コレステロール血症(FH):見逃せない遺伝性疾患

FHは遺伝性の疾患で、LDLコレステロール値が生まれつき高く、放置すると若くして心筋梗塞を発症することがあります。日本では約300人に1人が該当します。

FHの診断基準(成人/2項目以上で診断)

  • LDLコレステロール 180mg/dL以上(未治療時)
  • 腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫
  • 家族歴:第一度近親者にFHまたは早発性冠動脈疾患がある

FHでは、LDL受容体などの遺伝子に変異があるため、動脈硬化が急速に進行し、30〜40代という若さで心筋梗塞を発症するリスクが高まります。そのため、FHと診断された場合はスタチンが第一選択薬となり、LDLコレステロールの管理目標値は100mg/dL未満が推奨されています。

2. 冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)の既往あり:再発を防ぐためのスタチン

すでに心筋梗塞や狭心症を経験した方には、「再発予防(二次予防)」が極めて重要です。スタチンでLDLコレステロールを下げることで、心血管イベントのリスクが有意に低下することが多くの臨床試験で証明されています。

  • LDLコレステロールを1%下げるごとに、心血管イベントが約1%低下
  • 冠動脈疾患の二次予防では、治療開始前のLDL値にかかわらず、ストロングスタチンが推奨されています

循環器科からの処方箋を見ていると、心筋梗塞や狭心症の既往がある患者さんには、ほぼ例外なくスタチンが処方されています。「これは命を守るために必要な薬です」と自信を持って伝えられる領域です。

3. 脳梗塞の既往あり:タイプによってスタチンの必要性が分かれる

脳梗塞にはいくつかのタイプがあり、スタチンの有効性はタイプによって異なります。

脳梗塞の主な3タイプと特徴

  1. アテローム血栓性脳梗塞
    • 脳内の比較的太い動脈や頚動脈の動脈硬化が原因
    • スタチンが推奨される脳梗塞タイプ
    • LDLコレステロールは70mg/dL未満を目標に管理
  2. ラクナ梗塞
    • 脳の奥にある細い血管(穿通枝)が詰まる脳梗塞
    • 高血圧が最も重要な危険因子
    • スタチンの効果は限定的
  3. 心原性脳塞栓症
    • 心房細動などで形成された血栓が脳血管を詰まらせる
    • 抗凝固療法が中心で、スタチンの役割は少ない

コレステロール値は食事だけでどうにかなる?

「卵を控えればコレステロールも下がる」と思われがちですが、LDLコレステロールの約70〜90%は肝臓で合成されるため、食事だけで大幅に改善することは難しいことが多いです。

「コレステロールは1日約800mgほど食事から摂取しますが、肝臓では1日に約1000mg合成されています」という説明が、患者さんに理解していただきやすいと感じます。特にFHの方の場合、生活習慣の改善だけでLDL値がコントロールできる方はほぼいません。

薬剤師としての現場対応

薬局では以下のようなポイントがあれば注意が必要です:

  • LDLコレステロール 180mg/dL以上 → FHの可能性
  • 若くして親族が心筋梗塞や脳梗塞で亡くなった → 家族歴を確認
  • 冠動脈疾患やアテローム性脳梗塞の既往 → LDL管理の強化を指導

「飲まなくてもいいかも…」と思っている患者さんに、**”このケースでは絶対に必要な薬です”**と自信を持って説明することが、薬剤師の大事な役割です。

一方で、上記3つの明確なケース以外の「一次予防」領域では、判断が難しいケースも多くあります。このようなグレーゾーンの患者さんには、主治医の判断を尊重しつつ、患者さんの不安や疑問に丁寧に答えることが大切です。

まとめ

スタチンを飲むべきかどうかは患者さんの病態によって変わりますが、以下の3つのケースは**「確実に飲むべき」**と言えます:

  1. 家族性高コレステロール血症(FH)
  2. 冠動脈疾患の既往(心筋梗塞や狭心症)
  3. アテローム性脳梗塞の既往

これらの「絶対適応」以外では、患者さん一人ひとりのリスク・ベネフィットバランスを考えた個別化医療が重要です。エビデンスに基づいた確かな情報と、個々のリスクに応じた指導によって、患者さんの健康を守る支援を続けていきましょう!

次回の「ウーチーの薬剤師冒険記」もどうぞお楽しみに!

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