こんにちは、薬局薬剤師のウーチーです!
脂質異常症シリーズもいよいよ第3回となりました。これまでに「スタチンの副作用(特に横紋筋融解症)」や、「スタチンが必須となるハイリスク患者」についてお話ししてきました。
今回は、日常業務で遭遇する脂質異常症治療薬について、薬剤師としての視点から処方チェック、服薬指導、医師連携のポイントを含めて実践的に解説します。
スタチン系:LDL-C低下の第一選択薬
◆基本情報と分類
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、LDLコレステロール(LDL-C)を30〜60%低下させる代表的な薬剤です。動脈硬化性疾患予防ガイドライン(JAS 2022年版)においても、第一選択薬として位置付けられています。
- スタンダードスタチン(プラバスタチン、フルバスタチン)
腎代謝型で多剤併用時にも安心。基本的に食後投与。 - ストロングスタチン(アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン)
高力価のLDL-C低下効果を有し、特にロスバスタチンは水溶性で腎機能低下時にも使用可(2.5mg~)。
【参考】アトルバスタチンカルシウム錠 添付文書(PMDA, 2024年3月改訂)
◆服薬指導・注意点
- 横紋筋融解症リスク:筋肉痛や赤褐色尿があれば、CK・肝機能を確認。
- 糖尿病発症リスク:HbA1cや血糖の定期的モニタリングが推奨されます。
- 相互作用:CYP3A4阻害薬(クラリスロマイシンなど)、グレープフルーツジュース、シクロスポリンとの併用には特に注意が必要です。
【出典】医薬品インタビューフォーム
フィブラート系:中性脂肪(TG)をターゲット
◆作用と使用状況
PPARα作動薬として中性脂肪(TG)を30〜50%低下させ、HDLの上昇作用も期待できます(動脈硬化性疾患予防GL 2022)。
◆腎機能と薬剤別対応
- ベザトールSR:Cr 2.0mg/dL以上で禁忌(PMDA)
- リピディル:CCr <40mL/minで禁忌(PMDA)
- パルモディア:以前は腎機能による制限がありましたが、2022年の改訂で解除(PMDA改訂情報)
※腎機能評価にはeGFRだけでなく、CrやCCrの確認が重要です。特に高齢者や女性では注意が必要です。
◆適正使用のポイント
- 基本は食後投与(※パルモディアは空腹時可)
- 2018年以降、スタチンとの併用禁忌が解除され、併用処方が増加中。
- TGが500mg/dL以上の場合は、急性膵炎予防の観点から積極的な使用が推奨されます。
【出典】脂質異常症治療薬の添付文書変更に関する見解(日本動脈硬化学会, 2020)
EPA・DHA製剤:TG+残存リスクに対応
◆作用機序と製品情報
TG合成の抑制に加えて、抗炎症作用・抗血栓作用を持つ製剤として注目されています。
- エパデール(EPA):600mg錠を1日3回、食直後に服用(エパデールS600 添付文書)
- ロトリガ(EPA+DHA):1〜2回/日、食直後に服用
◆服薬指導ポイント
- 食直後の服用厳守:吸収率が大きく変動するため。
- 出血傾向の確認:抗凝固薬併用時には特に注意。
- 効果判定は2〜3ヶ月後を目安に実施。
【出典】薬局における疾患別対応マニュアル(厚労省, 2021年)
エゼチミブ:スタチン補助の切り札
◆作用と使用法
NPC1L1阻害薬で、小腸からのコレステロール吸収を抑制します。IMPROVE-IT試験においても有効性が確認されています。
- 単剤使用:スタチン不耐、軽症LDL高値患者に。
- 併用療法:スタチン+エゼチミブ併用でLDL-C低下が強化されます。
【出典】寺本民生. 臨床医薬, 2009;34(11):765-782
◆注意点
- 副作用として便秘、ALT上昇などがあります(エゼチミブ錠 添付文書)。
- 筋症状はほとんど見られず、スタチン併用時でも安全性は高いとされています。
PCSK9阻害薬・新規注射薬:注目の最強LDL低下薬
◆注射製剤の特徴
注射製剤としてLDL-Cを60%以上低下させる効果があり、最適使用推進GLでも取り上げられています。
- レパーザ(エボロクマブ):140mg/2週 or 420mg/4週皮下注
- プラルエント(アリロクマブ):75〜150mg/2週皮下注
- レクビオ(インクリシラン):初回→3ヶ月後→6ヶ月ごとに皮下注
◆薬局対応のポイント
- 初回指導:自己注射指導と注射部位の説明
- 保冷保管:冷蔵管理の徹底
- 来院管理:レクビオは半年に1回のため、再診タイミングの確認が重要です。
【出典】最適使用推進ガイドライン – エボロクマブ(厚労省, 2017年)
実践ポイントまとめ:薬剤師の“腕の見せどころ”
◆処方鑑査で確認すべきこと
- 腎機能評価ではeGFRだけでなくCrの併用確認を。
- 相互作用チェック:CYP阻害薬、免疫抑制剤など。
◆服薬指導とフォローアップ
- 筋症状・肝障害・出血傾向などの副作用を早期に察知。
- EPA・DHA製剤の食直後の指導は忘れずに。
- 注射薬は初回フォロー+冷蔵保存の重要性を強調。
◆医師への提案例
- LDL-C未達なら、スタチン+エゼチミブの併用を提案。
- 腎機能低下時には、フィブラートからパルモディアへの切り替えを検討。
- コントロール不良例には、PCSK9阻害薬やレクビオの導入も選択肢に。
おわりに:薬剤師の介入が治療の質を変える
脂質異常症治療では、単なる数値管理だけでなく「患者背景の理解」と「副作用の早期察知」が極めて重要です。
薬剤師としての介入が、処方提案・副作用防止・治療効果の最大化につながります。日々の業務の中で、ひとつひとつの気づきが患者さんの未来を変えるかもしれません。
それでは、また次回の冒険記でお会いしましょう!
ウーチーでした😊
📚参考文献リスト
- 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 日本動脈硬化学会, 2022年7月.
- アトルバスタチンカルシウム錠 添付文書. PMDA, 2024年3月改訂.
- ベザフィブラートSR錠 添付文書. PMDA, 最新版.
- 日本動脈硬化学会. 脂質異常症治療薬の添付文書変更に関する見解. 2020年4月7日.
- エパデールS600 添付文書. PMDA, 2016年改訂.
- 厚生労働省. 薬局における疾患別対応マニュアル. 2021年3月.
- エゼチミブ錠 添付文書. PMDA, 2020年6月.
- 寺本民生. 日本人高コレステロール血症患者を対象としたエゼチミブとロスバスタチン併用の有効性と安全性. 臨床医薬, 2009;34(11):765-782.
- 厚生労働省. 最適使用推進ガイドライン – エボロクマブ(遺伝子組換え). 2017年3月.
📘書籍紹介:『薬局で使える実践薬学』(山本雄一郎 先生)
服薬指導に役立つ実践書です。
スタチンとネオーラルの併用は、**血中濃度が最大投与量を超えるため「併用禁忌相当」**と説明されています。(ローコールを除く)
また、グレープフルーツジュースやクラリスロマイシンのCYP3A4の相互作用で
アトルバスタチンやシンバスタチンがどの程度影響するかが表で明確に示されています。
相互作用や副作用リスクを伝える際の指導ポイント整理に最適な一冊です。
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